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五十五
彼はなぜここに来たの? リリアに危険が迫ったと側近と執事が連絡したのね。
――正直、エルドラッドには会いたくなかった。
でも、エルドラッドは違うみたいで、あの日とは違い、優しく私を見つめてくる。
「…………っ」
なんなのこれ? あなたが私をそんな目で見る必要はないはず。
その瞳がいや、ゾワゾワする。
「エルモ、会いたかった。僕が送った手紙をみて会いにきてくれたんだよね」
「え、手紙?」
「うん。アルベルトからエルモを見つけたと手紙が届いたんだ。僕が会いたいと伝えると、話をつけてファーレズに連れていくと約束したから……ところで、一緒に来ているアルベルトはどこ?」
そうか。アルベルトは私も連れていくつもりだったけど、グルに邪魔されて、リリアの頼み事を終わらせてから……サーティーアへ私を迎えに行けばいいと思ったのね。
「殿下……彼はファーレズにはきていません、故郷のサーティーアにいます。私は皇太子殿下に会いにきたのではなく別の用事できています。……彼から、手紙をもらっていません」
「え、そうなんだ。でも、この話を聞けばエルモは喜ぶと思う。もう一度、僕の婚約者になってくれエルモ――」
私がエルドラッドの婚約者なる?
あんなに傷付けておきながら、どの口が言うの。
「お断りいたします……私は公爵家を追い出されて平民になりました」
「それも大丈夫だ。公爵に連絡したらすぐにエルモを受け入れると話がきた――戻っておいで、エルモ」
両親に連絡した……?
戻ってこい?
当たり前だわ。あの人達は権力しか興味のない人達だもの……そう、言うに決まっている。
「喜んで、エルモは公爵令嬢に戻れるんだよ。よかった」
――喜ぶ? よかった?
あなたは人の気持ちを考えず、自分のいいようにしか考えていない……いつまで、頭の中はお花畑なの。
「いやです、公爵令嬢にもあなたの婚約者にも戻りません! ……私、最愛の人と結婚いたしましたの。ねえ、グル」
彼を見つめると、コクンと頷いのたけど。
「ごめん」
「え、なにが?」
「……こ、言葉がわからない。そいつさっきからなんて言っているんだ? エルモをみつめて、すごく不愉快なんだけど」
「え、サーティーア語。ファーレズ語は?」
「準備した魔法薬がきれて……しばらく使えない」
もう一度あやまり。ごめんと、シュンとするグル。
「……フフ、わかった。会話の説明すると、私をもういちど婚約者にしたいって言っているの」
「はあ? エルモを婚約者に?」
会話の内容がわかって、グルはエルドラッドを睨みつけた。
「な、なんだ君は?」
「……エルモは出会ったころ傷付いた、寂しい瞳をしていた……エルモを傷付けて婚約破棄したくせに……もう遅い! エルモは俺の嫁だ、おまえにはわたさない!」
グルはエルドラッドに見せつけるように、おもいっきり私を胸に抱きしめた。
「ちょっ、グル……」
「なんだ照れたの? その照れるエルモの可愛い顔を、ソイツに見せたくない」
と、顔を腕のなかにエルモを隠してしまう。
「もう、グル」
「顔をだすな、ヤツにみえる」
「フフ、やめて」
「いやだ、やめない」
エルドラッドをそっちのけで、グルの腕のなかに収まっていた。緊張していたから、グルの体温と香りで落ちついた。
「お、おい。おまえら、二人で何を話している? 僕にもわかるように話せ!」
――え?
「まあ、皇太子殿下は話している内容がわからないのですか? この言葉は殿下も習っているサーティーア語ですわ」
「…………サーティーア語? すまない」
「そうですか……私が一人でサーティーア語を習っているとき、あなたはリリア様とご一緒でしたもの――」
忘れもしない。サーティーア語を習った帰り――「何しにきた、帰れ!」と、リリアの腰を抱き寄せながら怒鳴られた。
「フフ、いまとなっては昔のことですわ。お気になさらず」
エルドラッドは"ウグッ"と言葉をつまらせた。
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