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六
カーテンのない大きな窓、そのすぐ側には部屋の半分を埋めつくすクイーンサイズのベッド、食事を取る二人掛けのテーブルに小さなキッチン。
奥の書斎には本が山積み、トイレ、お風呂と一人で住むには十分な広さだ。
「前の住人はお化けが怖くて、家具を置いて出て行ったのかしら? そんなこと、今はいいわ」
エルモは家の中を一通り見て、ワンピースの袖をまくり、
「お布団から、干しましょう!」
窓を全開にして窓枠に布団を出した。
外で拾って来た長い棒にハンカチをくくり付けて、上から埃を落として床を拭こうと、水道の蛇口を捻ったのだけど水がでない。
もしかして――元栓がしまっているのかと、家の周りをみて、井戸も無いか探してみたけど、見つからなかった。
「困った、どうしょうかな?」
今日は掃き掃除だけにして、明日にでも地主のおばちゃんに聞けばいいやと諦めて、持って来たトランクケースを整理する事にした。
中身は両親が最後にくれた少しばかりのお金と、売れそうな私物、お洋服と下着が数枚はいっている。
(ついて早々、家は見つかったし。これらの私物を売れば、しばらくは働かなくてもいいかな?)
いいよね、まったりしても。
朝はお寝坊をして、一日中だらだらとベッドに寝転んで本を読み、たまに部屋のお掃除をして好きなものを食べる。
縁側は無いから庭先でボーッと、椅子に座って日向ぼっこがしたい。その生活をする為に、前世で培った節約術を役立てる時が来た。
料理は趣味だったからパンを焼き、畑に種を撒いて、野菜を育てまったり暮らすわ。
食べる物も着る物だって気にしない。いま、あるものをなおして、繕って使えばいい。
トランクケースの中から紙で包んだ、小振りなフランスパンを出してキッチンの上に置いた。
(今日は疲れたから早めに寝よう)
明日は地主のおばちゃんの所に、水道にガスの事を聞きに行って。その後は村をまわって。野菜を売ってもらえないか聞こう。
着ていたワンピースを脱ぎ椅子にかけて、お布団にもぐる。
「んん、お日様のにおい」
干して、ふかふかになったベッドで眠った。
❀
その日の夜半ごろ。
雨雲は空を覆い"ポツリポツリ"と、降りだした雨はじょじょに強さを増した。
窓に打ち付ける雨音にも気が付かず、エルモは移動疲れでぐっすりベッドに潜り眠っていた。玄関の鍵があき"ギ―ッ"と音を立てて開くと、頭からすっぽりと黒いローブを被った人物が入ってくる。
その人物は背中に背負っていた籠を玄関の脇に置くと、雨に濡れたローブを脱ぎ捨て、次々と濡れた衣類を玄関で脱ぎすてた。
(ひどい雨だった、明日にはやむかな?)
躊躇なく最後まで脱ぎすて、近くの椅子に掛けてあったタオルで体を拭きベッドにもぐる。
(……あれっ?)
何日も家を開けたはずなのに……"ホコリも臭くなく、布団がふかふかしている?"おかしい、とは思ったが……雨と歩き疲れで、その人物はすぐに眠りに落ちた。
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