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五十七
エルモたちは王城から一瞬で、乗ってきた荷馬車の荷台に移動した。
「はあ、終わった」
「終わったね」
「腹減ったぁ――!」
みんなで荷台の上にごろ寝した――これで熱病も回避したし。エルドラッドも二度と追ってこないだろう。
――あの子が王妃教育かぁ。逃げだすかも……
そうなったら新しく教育がすんだ令嬢、隣国の王女を嫁に迎えればいいだけのこと。殿下にとことん甘い陛下と王妃がみつけるだろう。
(とくに殿下に甘い王妃「あなたの好きな人をお嫁さんにもらいなさい」だもの)
それだから、婚約破棄のときも「そうなの」と言って。さっさと婚約破棄の契約書、書類に判を押した。エルドラッドが愛するリリアが、王城で何をしても黙認していたみたいだし。
――私は熱病が広まらなかったから、それでいい。
ふうっ、なんだか疲れた。
同じように疲れたグル、グレと、荷馬車の中でしばし疲れを癒した。
気付いたら、夕方になっていた。
街で食べ物を買って近くの森に移動して、一晩明かし。早朝――精霊のいないファーレズにいてもしかたがないと。荷馬車を借りた村にむかい、荷馬車を買ってファーレズとダンリズの国境を越えた。
隣国――ダンリズは農業国。
国境を超えてすぐに広い小麦畑、ジャガイモ畑、キャベツ畑などがみえた。グルは御者席でダンリズ国を見回してうなずく。
「この緑豊かな国なら精霊がいるな――エルモ、村にかえったら、すぐにでもチェリチタの木の下で挙式あげよう」
「はい!」
グルの言うとおり、ダンリズ国にはいってすぐの森で、赤い花をあたまに咲かせた花の精霊をみつけた。グルはその精霊に声をかけて、シルワ様からもらったチェリチタの花をみせた。
「花の精霊、俺たちをこの花のところまで送ってくれ」
〈花のところ? はい、は〜い〉
あたまに赤い花を咲かせた手のひらサイズの精霊は、ふんふんとフェリチタの花の周りを飛び。
〈サーティーアのシルワ様のところですね〜かしこまりました〜。ラララ〜 ルルル〜〉
精霊は陽気に歌い、小さい杖を振りサーティーアまでの入り口をひらいてくれた。
〈よし、よし開いたよ〜 ……でもね。その、大きいのは無理だから貰ってもいい? この森のチーチ様にあげる〉
「いいよ、自由に使って。兄貴、エルモ帰ろう」
「ええ、帰りましょう」
「帰ろう!」
「「花の精霊ありがとう」」
〈どういたしまして〜〉
エルモたちは荷馬車を精霊に渡して、サーティーアへの入り口を通ると。すぐに森の景色は変わり、エルモ達はみなれた"精霊の森"の前につく。
「帰ってきたな……シルワ様への報告は明日にして、家に帰って風呂にはいって寝よう」
「そうしましょう」
「オレは寝る……エルモちゃん抱っこ」
グレを抱っこすると、すぐに寝息をあげた。
その様子をみて「兄貴、ごくろうさま」と伝えた。獣人はいちど番ーー愛する人をみつけると。
一生、そのつがいを想い、守り、大切にする。
しかし、グレは"リリア"という番をみつけたが拒否された。一方通行の想い……それはつらく悲しいこと。この旅でグレはリリア――番との別れをしてきたのだ。
(道中も、リリアと会ったときも、グレちゃんはそんな素ぶりひとつも見せなかった……グレちゃんは強いな)
「泣くな、エルモ。お前だって、番とお別れしたんだからな――辛かったろ」
――えっ。
番か、エルドラッドのことを言うのだろう。
彼へのわだかまりは全て吐きだしてきた。
「ありがとう、グル」
グルの転移魔法で家に帰って、お風呂……の準備はできず。
ベッドに倒れこんで眠った。
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