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 彼が奥の部屋から、シャツとスラックスに着替えて出て来た。 「俺の名前はグル。歳は十八、お前は?」 「私はエルモと言います。歳は十八です」 「エルモか……悪いけど。いまから、地主のばっちゃんの所に行くぞ」 「え、やだ、嫌です!」 「ダメだ、行くぞ!」  ここから追い出されるとわかり、ベッドに潜り嫌がったけど、グルの力には勝てず布団を剥がされた。 「はい、エルモ、ベッドからおりて」 「……うっ、わかりました」  渋々ベッドから降りて、昨日着ていたワンピースを手に取ると、何故だか湿っていた。 (あれ、ワンピースが濡れてる?)  不思議に思い、湿っているワンピースを広げて確認していた。その姿を見て、グルは『あっ、それ!』と声をあげた。 「グルさん、どうしたの?」 「いや、あー悪い。それタオルじゃなかったんだな……昨夜、それで濡れた体を拭いた」 「え、このワンピースで体を拭いたの? ………フフッ、なんだ、犯人はグルさんですか」 「……ごめん」 「大丈夫ですよ。洗濯すれば、まだ着れますから」  部屋の隅に置いておいたトランクケースを開けて、新しいワンピースを出して着替えた。  「準備できたな、行くぞ」 「はい」  エルモはグルの後について、オレンジ色の屋根の地主の家に向かった。グルは家に着いた早々、地主の玄関を乱暴に開けて『ばっちゃんいるか?』と聞いただけで返事は待たず、ズカズカと家の中を進んだ。  そして、居間の扉を開けてちゃぶ台でお茶を飲む地主のおばちゃんを上から見下ろし、その前にドカッと座った。  おばちゃんもいつものことなのか茶飲み、チラッと、グルをみるも驚かず。 「なんだい? うるさいと思ったらグルかい」 「ばっちゃん、俺は四日前ーー家を出る時に薬草採取に行くと伝えたよな? まったく、俺の家をお化け屋敷だと、また変な作り話までつくりやがって!」  怒ったように話しかけたグルに対して、おばちゃんはエルモを見て、 「その子、可愛い子じゃろ? ………お、そうじゃ、グル、ちーとこっちに来い」  おばあちゃんはグルを手招きして、耳打ちした。声が小さくて聞こえないけど、話を聞いたグルは、フルフル震えて顔を真っ赤にした。 「い、いきなり何を言いうんだよ、既成事実だなんて! 前から、余計なことはするなって、いつも言ってるだろう」 「そうじゃが、こうでもせんとグルは奥手だからの」 「それは関係ないだろう、ばっちゃん!」  地主のおばあちゃんは『ふおっ、ふおっ』と笑ってばかりで、グルの言葉に聞く耳を持たない。既成事実だとか言われて、頬を赤くしてグルは。 「それにばっちゃん! こんな可愛い子に俺なんかが、手なんて出せるかよ」  その反応におばちゃんはニヤッと笑う。 「グル、本音をポロッと言ったの、エルモを可愛い子じゃと……ふぉっふぉっ、わしの目は狂っていなかった………エルモからグルと同じ良い気を感じとったんじゃ、お似合いの二人じゃと、めでたい、めでたい」 (どうしよう、おばちゃんは喜んでいるけど……) 「……私は」 「こらっ、ばっちゃん! エルモを困らせるな……それに、俺にはまだやる事がある」  と、いうグルに、おばちゃんは眉をひそめた。 「だけどよ、グル………そのことに関してはダメでも、いいんじゃよ。村の連中もそう言ってるでよ」  そうおばちゃんが言っても、グルは首を横に振る。 「俺は諦めない!」 「………そうか。お前ばかりに、無理をさせるのは忍びない」 「大丈夫だよ、俺は一人じゃ無い」  二人は話していくうちに、悲しい表情を見せはじめたから、部外者のエルモが聞いてはダメな話なのかも。  あの家で新しい生活を始めたかったけど、あの家はグルの家だ。でも、直ぐに家を出て行っても、エルモには帰る場所が無い。  ーーいまは、二人に頼むしかない。 「あの、グルさんかおばちゃん。私に仕事が見つかるまで、どちらかの家に置いてくださいませんか?」   「いいけど、うちは狭いでよ……」  と、おばちゃんはチラッとグルを見た。  それに、グルは頭をポリポリかき、ハァ―――ッと、ため息をつき。 「わかった! エルモが嫌じゃなかったら家にくればいい。俺はまた明日から、二、三日ほど、薬草を摘みにでて家を開けるから」 「いいの? グルさん、ありがとう助かります」  ――よかった。  でも、それに甘えてはいけない、すぐに住み込みで働ける仕事を探さないと。そうだわ、いまから近くの街にでて、仕事を探してみよう。 「エルモ、すまなかったな」 「いいえ、気にしないでください。違う、住む場所を探せばいいだけですから。グルさん、私は少し出かけてきますね、帰りは夕方ぐらいになるかもしれません」 「……わかった」 「では、ごきげんよう」    エルモは日頃から慣れ親しんだ、カーテシーで二人に挨拶した。普通の街や村の女の子達はしないことに、エルモは気付いていなかった。
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