グルとばっちゃん

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グルとばっちゃん

 エルモを見送ると、グルと地主のばっちゃんはエルモについて話しをしだした。 「ばっちゃん……俺」 「わかっておる。グルは一目見てあの子を気に入ったのじゃな。ワシらがそうなれば……もう誰も止めることはできぬ」  グルは"そうだ"と首を縦にふる。 「そうだけど、本当の姿を見せてエルモに怖がられて、嫌われたくない」 「そうだな、ワシらは人間とは違うからの、特にお前はなぁ、グル。でも、なんとなくだが、あの子は大丈夫かも知れんぞ」 「ハァ? なにを根拠にそんなことをいえる?」 「ホッホ、相思相愛だったワシが見本じゃてなぁ、じーさん」  ばっちゃんはダンスの上に飾られた、若い頃の写真を懐かしそうに眺めた。 「ばっちゃんとじーちゃんは、村で一番の仲良し夫婦だったな。子供のころに俺もそうなりたいと、憧れたよ」 「ふおっ、ふおっ。人も羨む仲じゃった」  幸せそうに微笑むばっちゃんを見て、グルも微笑み……寂しげな瞳をしている、エルモにも笑ってほしいと思った。  ばっちゃんは急須と茶飲み茶碗を出すと、グルの分も入れた。そのお茶を飲み一息ついて話し出す。 「なあ、ばっちゃん。エルモのあの仕草は貴族のお嬢様みたいだった。今朝、エルモは帰るところがない、家を追い出されたと俺に言ったんだ」  ばっちゃんは頷き。 「令嬢か……そうかもな。あの背筋がピーンと伸びてきれいに歩く姿は品があった。……だが、このあたりで屋敷を追い出されたお嬢様の話は聞かない。もしかすると、エルモちゃんはどこか遠くからサーティーアに来たのかもな」 「……上手く言葉を話すけど、そうかもしれないな」 「しっかり者で、優しいお前さんの嫁にでもなれば、あの子はもっと笑うだろう……グル、頑張るのじゃよ」 「ああ、俺にできる範囲で頑張ってみる」 「そのほうがいいかもな。グルはへんに背伸びをして、緊張して、ヘマをしそうじゃから」 「ばっちゃん!」 「ふおっ、ふおっ」 「頑張ってみるよ――そうだ、王都のギルドにポーションを納品に行くけど、ばっちゃんは何かいるものはあるか?」 「あるぞ、王都で有名なシュークリームが食べたいの、エルモちゃんの分もよろしくじゃ」 「シュークリームだな、わかった!」  グルは、ばっちゃんの家を後にすると一度家に戻り。黒いローブを身につけてポーションを納品しに王都に向かった。
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