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「なにやってんだよ、いま2限目だろ?」
屋上のドアを後ろ手で閉めながら、すぐ足元で縮こまっていた人影を見下ろす。
「あ、あの……体育で……」
「へぇ」
――まあ、優等生でもサボりたいときくらいはあるわな。
「運動苦手なんだ?」
向かい合わない程度に、正面を避けて腰を下ろす。
微かに頭を上げた七瀬は、黒い髪を力なく左右へ振った。
「おまえさ、人のテリトリーに無断侵入してんだからもーちょっと喋れよ」
「ご、ごめんなさい」
一瞬だけ見合わせた顔が、両膝を抱えた腕の中に沈む。俺に怯えながらも毎度屋上へ来るんだから、こいつのこじらせ具合も相当ってことだろう。
「んで? 苦手じゃないのに何でサボり? 『2人組になってくださーい』とかのあれか?」
「体操服忘れて……借りれるトモダチ、いな――ら」
予想のさらに先をいく回答に、思わずため息が零れた。
他人の汗が染みた服なんて、俺なら借りるのも貸すのもゴメンだ。だが問題はそこじゃない。
こいつがただのボッチなら幾分かマシ。そうじゃないから、余計にややこしい。
「あ、あの……先輩は、何してるんですか? いま2限目です」
こちらを盗み見る視線には気づかないフリをして、買ってきた炭酸ジュースのキャップを捻る。
「俺はさっき来たとこ」
「ですよね」
「わかってんなら訊くなよ」
喉を掻くような強炭酸を流し込むと、見上げた空が眩しくて目を細めた。
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