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――今年の春、フルマークで一般クラスへ入学したヤツがいるらしい、と話題になった。偏差値の高低差が激しいこの高校では、それは異例中の異例だった。
そしてわずか2週間後、話題の主は屋上へ現れるわけだが――。
黙って腰を上げると、背もたれを求めて隣へ並びなおす。
これだけお喋りすれば、横に座ってももう怯えないだろう。
「なあ、これ食う?」
炭酸と一緒に買ったパンをビニール袋から出し、力任せに外装を左右へ開く。
「なんですか?」
「焼きそばパン。見りゃわかるだろ」
「……ヤンキーが食べるやつ」
――――んにゃろ。
何か言い返してやろうかと思ったが、七瀬は、俺のため息ひとつで肩を震わせた。
「んじゃ、おまえが食えばイメージ一新されんな」
膝を抱えていた手を強引に解き、歪に割れてしまったパンの片方を乗せる。ここまでしてようやく食べ始めた横顔を見ながら、今度は聞こえない程度に息を吐いた。
「体操服さ、忘れたときは俺んとこ来れば? ジャージなら貸すけど」
「学校……来てないじゃないですか」
――――あ、そっか。
「風、ないな。あっついわ」
「はい……口の中がボソボソします」
反射的に開けた口をパンで塞ぎ、1本しかない炭酸ジュースを2人の間に置く。
意外、というと語弊が生じそうだが、既に開封しているそれを七瀬は迷わず手に取った。
柄にもなく、少しだけ心配になる。このまま夏が過ぎて秋になって、冬になって、俺がいなくなったらこいつは、ここで一人だ。
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