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「……おまえが女だったら良かったな」
完食する瞬間を見届けながら、なんとなしに呟く。
「ほら、女だったら俺の彼女にもなれるわけじゃん。話題性っていうの? そういう話は食いつきいいし、自然と輪の中に入っていけそうだろ」
あまりに突飛過ぎたのかもしれない。咀嚼を続けながらも、きょとん、と丸い目で見返されてしまった。
「あの、でも――」
僕は男です、と言わんばかりに、喉元の突起がゴクリと下がる。
「性別の概念なしに、逆がいいです」
あっさりと告げられたせいか、同じセリフを頭の中で何度も復唱した。
「俺がおまえの彼女ってこと、だよな? このナリ見て言ってんの?」
「はい。笑ったときのエクボ、かわいいです」
わらっ――そんな笑うか?
長いまつげに、色素の薄い瞳。黒髪が似合う白い肌。半袖からチラつく二の腕は柔らかそうではないが、どちらが女役かといえば、紛れもなくこいつだ。
「いや、どう考えても抱かれるのはおまえだよ」
「……見た目、ですか?」
痛いところを突かれたせいか、それとも挑発的な眼差しのせいか。七瀬の前で、初めて拳を握った。
「んじゃ、キスくらい簡単だよな」
分かりやすく目線を流し、あぐらをかいた足の先をポン、と叩く。
発言の良し悪しじゃない。相手が誰であろうと、売られたモンは買う。それだけ。
逃げ出す選択もあっただろうに、七瀬は俺の前で膝を立て、躊躇いがちに夏服の袖を掴んだ。
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