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祖母から譲り受けたもので、祖母が若い時から使っていたのでけっこうな年代ものだ。いまも変わらず綺麗なまま使い続けているそれを、ちょうだいと言われ、千歳は開いた口がふさがらない状態に陥る。
「そうしたら出てってあげる。ここに二度と来ない。それでお終い、どう」
余裕綽々なメリィの要求に、唖然としている千歳の前へと、朋重が男らしく立ちはだかる。
「ここで帰ってくれないのなら、いまから来る父と兄があなたたちと交わした誓約どおりになるように弁護士を呼ぶと言っている。そもそも彼女の許可なく上がり込んでいる。それだけで警察を呼べますけれど」
「なーに副社長になったからって、偉そうに~。いいよね~、そのルックスで荻野のお嬢ちゃんを捕まえて、逆玉の輿じゃん。仕事しなくてもいい生活ができるって、やっぱクォーターはいいよね、特だよねー」
メリィの心ない煽りに、朋重が戦慄いているのがわかる。だが彼らしくそこではなんとか抑え、冷静になろうと荒げた胸を落ち着かせている。
『キタキタキタ来た。面白いことになるよー。飛んで火に入る夏の虫とはこのことか。こっちが仕掛けた甘い罠、どれも警戒せずに来ちゃったねえ。どこかで引き返せたのに来ちゃったね。もう容赦はしないから。おーほほほ』
千歳もムカムカしていたのに。福神様のニタニタニタニタした顔が『どん、どどどん』と頭のなかで次第にどアップになっていくので、びっくりして飛び上がりそうになった。
あ、これ。神様にロックオンされたんだと思えたら、妙に千歳も『すんっ』と落ち着きがもどってきた。
「朋重さん。これ、今晩のワイン。それとお刺身買っていたけれど、崩れちゃったかも」
「え、え。あ、うん。冷蔵庫に入れておこうか」
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