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千歳が冷静さを取り戻したせいか、朋重もすとんといつものおおらかそうな彼の顔つきに戻った。
千歳の手から、ショップバッグを受け取った彼が、不思議そうに千歳を見下ろしている。
そんな彼にぼそっと千歳は告げた。
「大丈夫。いまからご加護が働くから。あの人たちはね、ここまでわざと来させられたの」
「……そ、そうなんだ」
まだ長子付きの神様については明かしていないが、朋重は『荻野の家は信心深いせいか、なんらかの加護を受けている』ことは本気で信じてくれている。仲が良くなった伊万里からも、そんな信心深さを感じているようで、不思議だけれどそれが荻野と朋重も感じているのだ。だから千歳がそういえば、そうなると、まだ半信半疑だが納得はしてくれる。
冷静になった朋重が、ワインと刺身を冷蔵庫に入れてくれた。
「なになに。私たちにもワインをちょうだいよ」
「そうえいば、お腹すいたー。さっきの刺身ちょうだい」
ちょうだいしか言えないのかと、千歳のこめかみに青筋が浮かびそうになる。
そろそろセキュリティの警備員が駆け込んできて、もう少ししたら浦和の父と兄が来るだろう。それまでの我慢。あと少し。
だが言うことを聞かず、動揺もしない千歳を知ってか、伯母の紹子の顔つきが変わってくる。
「あんた、生意気だね」
千歳は取り合わなかった。それも気に入らなかったらしい。
伯母の鋭い目つきが、千歳へと向けられる。
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