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「生まれた時から恵まれてきて、いい気になってるんだよね。あんたみたいな、最初っから恵まれているヤツ、ちょっと痛い目にあってもたいしたことないんだろ。ケリーの一個や二個すぐに買えるんだろ。ケチケチしないで出せ」
これは短期決戦を仕掛けてきたのだと千歳は思った。
どうせすぐにセキュリティ警備員が来る。退室させられる。それまでに脅しに脅して怖がらせて震え上がらせて奪おうとしている。
でもどうやって逃げる気なのか。どちらか一方が持って逃げて、どちらか一方はとりあえず捕まる。それでも、警察沙汰にはならないと踏んでいる?
「なんだよ。妹みたいにめそめそしてくれたら、優しく可愛がってあげたのに。でも妹は我慢強かったからさ。我慢できないほどにしてやったんだよね。おなじ事、あんた耐えられるかな。お嬢ちゃん」
そのひと言に、やっと収めた怒りが再燃しそうになった。腸が煮えくりかえるというやつだ。
報告書には、朋重の母親がどれだけのことをされたのか羅列されており、千歳は知っている。
脅しに強請、自宅急襲に恐喝して強奪。言うことを聞かせるために男に襲わせるという未遂事件まであった。女の尊厳を奪って、離婚されればいいと思ったそうだ。本来なら刑事事件になりそうなところ、親族のしがらみで取り逃がすことになって、なんとか落ち着けたのが、ひとまず餌をやって大人しくさせる誓約。
こんな酷い嫌がらせだから、子供だった朋重は知らなかったのだ。
だが、千歳の目の前で朋重が一瞬で青ざめたのを見てしまった。
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