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「どうぞ、どうぞ。虫が見つかったらすぐにお呼びしますね」
食べかけの菓子を伯母が千歳に向かって投げつけてきた。白いブラウスに菓子の餡が飛びちるかもと目を瞑り顔を背けたが、千歳には当たらなかった。目を開くと、またもや朋重が千歳の前に立ち塞がり、彼のシャツに菓子がぶつかっていた。
「朋重さん……」
「大丈夫。ちーちゃん」
まて。いまここで『ちーちゃん』はやめてと、千歳の顔が熱く火照る。
それ。誰の前でも呼ばない、夜だけ、ふたりきり限定の呼び方!
でも朋重もテンパっているのか、うっかり注意が削がれて素で呼んでしまっていたようだ。
そのせいか。千歳もほんとうにどうでもよくなってきた。
浦和家側の悪縁を持ってきてしまって、申し訳なさそうな彼を見るのが辛かった。守ろうと男らしく立ち塞がってくれただけで、千歳には充分……素敵なパートナーだった。
『私らの菓子を粗末にするとは許さん!!』
そんな声が聞こえてきたし、どアップの福神様のお顔は膨れに膨れて真っ赤になってお怒りだった。
『もう充分だ、千歳。おまえの真珠を持たせて帰しな』
真珠? 千歳は今日も首元につけている彼からの贈り物に触れる。
『それじゃないやつ。一等に高価なやつをそれぞれに持たせな。後はおまかせあれ』
聞こえた声に、ぽっと思い浮かんだ真珠がふたつあった。
「朋重さん。ここで待っていて。ふたりがこの部屋から出ないように絶対よ」
「でも。千歳」
朋重に再度『お願いよ』と念を押して、千歳はベッドルームへと向かう。
クローゼットを開けて、そこにあるアクセサリー用のタンスから、ビロードの箱をふたつ取り出す。急いでリビングに戻った。
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