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⑰荻野リーサルウェポン
「ほんとうに、申し訳ない。当家のしがらみに千歳さんを巻き込んでしまった」
来るなり栗毛のお父様がスーツ姿で、千歳の足下で土下座をしたのだ。
そんなことさせるつもりなど一切ないから、すぐに頭を上げて立ってくれるように千歳は懇願する。
彼の兄も『千歳さんが困っているから、よそう』と父親の勢いをなだめてくれる。
朋重と夕食をするところだったので、慌ててやってきた義父と義兄にもと、二人で配膳をした。
こんな時なのにと義父は遠慮したが、気持ちをほぐすためにも、千歳は買ってきたワインを勧めた。
それぞれがダイニングテーブルの椅子に落ち着く。千歳と朋重が並んで座り、向かい側に浦和の父『正貴』と、兄の『秀重』が並んで座った。
栗毛ハーフの美形おじ様と、クォーターの栗毛兄弟が揃うテーブルの麗しさ、目を瞠る光景がそこにできあがっていた。
そんな中、浦和の父に、千歳も頭を下げる。
「申し訳ありません。本店に伯母様がいらした時に、こちらで調べさせていただきました」
『どうして伯母の紹子がこのようなことをしたのか』と、懇々と義父が説明することが予想できたので、千歳から『みな言わずとも知っている』と伝えた。
父親の口から、母親が受けた酷い仕打ちを語らせると、知らずに育った朋重が生々しい話を聞くことになる。いくら三十の大人になったとは言え、子供のころのまま記憶が止まっていた朋重にはショックを受けてあたりまえの内容だ。だから聞かせたくなかった。
だからなのか、かえって義父の正貴がホッとした顔をしてくれたので安堵した。
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