⑰荻野リーサルウェポン

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「とある現象? 千歳にも起きたということ?」  尋ねてくる朋重に、千歳は静かに頷く。 「神の夢を見るという現象です。いままで次子がその夢を見ることはなく、長子が見てきました。女児だろうが男児だろうが、夢を見た者が跡を継ぐ者としてきました」  栗毛の男三人がともに、目が点になっていた。  あまりにも突拍子もないことを言いだしたと怪訝に思っているのだろう。荻野の後継者がそんなことを言い出すはずがないと信じたいところだろう。  だが、やはり順応が早いのも、千歳のそばで半年過ごした朋重だった。 「千歳はその夢を見たということなんだ」 「そうね。小学生の時。神様の夢を見たら教えなさいと、両親と祖母に言われていたの。伊万里が見る可能性もあったけれど、やはり長子の私が見たの。伊万里はまったく現れないんですって」 「どんな神様なの、千歳の神様は」 「海に浮かぶ恵比寿様のような神様。私は福神様と呼んでいる。うんと食いしん坊の神様」  なにか覚えがあるのか朋重もはっとした顔になったが、浦和の義父も義兄も同じようにはっと目が覚めたような顔をしている。 「だから千歳は大食いってこと」 「わからないけれど。川端さんのおうちのタコ天とタコ飯はすごくお気に召したようよ。タコが大漁になったでしょう」 「ええ!? あれって千歳の神様の仕業!?」 「ミチルさんのお腹の赤ちゃんも逆子が治ったでしょう。お祖母ちゃんの関節痛も。あれは、美味しく食べさせてくれた御礼なんだと思う」  なんとなく『荻野のお嬢さんが出向いたから起きたこと?』と感じ取っていたからこそ、不思議だけど現実のものだったのだと、朋重は驚きの顔に固まっている。
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