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へえ。謝れるんだと千歳は意外な思いを抱く。
ほんとうは娘の彼女も被害者だと思い改める。母親から、あんな非常識でも平気で生きていけることしか、教えてもらえなかった人生だったのだろう。
彼女の目の前の椅子へと、千歳は座る。伊万里はドアの入り口に立ったまま、少し距離を取ってくれた。一人きりで来た子供のような彼女を、大人二人で威圧しないためと思ってくれたのか。こんなところ、弟は気が利く。
さらに細野が、お茶の準備へと外へ出て行った。
「お母様はどうされたのですか。いつもご一緒でないと、貴女もお困りなのでは」
「ママは、入院しているの」
「入院? どこか悪くなられたとでも」
内心『うわ、神様たち、そこまで怒っていたのか』と千歳自身がゾッとしてしまった。
ドア前に控えている伊万里も『神さんたち、マジ怖えぇ』と震え上がったのがわかる。
メリィが涙をぽとぽとと落としながら話し始めた。
「ママと私、あれから急にご飯がうまく食べられなくなったの」
「うまく、食べられない? どのように……ですか」
「いつも、おいしいレストランに行ったり、お酒を飲んだりしていたんだけれど。そのお店に行けなくなっちゃったの」
「お店に入れない、ということですか?」
「ママと今日の夕ごはんはあそこだねと、毎日どこかに行くのに。でかけようとすると、タクシーのタイヤがパンクしたり、タクシーがつかまらなかったり、電車が遅延して待っても全然来ない事故だったり、ママの知り合いのおじさんに車で来てもらっても、おじさんが事故に遭って車が壊れちゃって使えなくなったりいろいろ」
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