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「なんで。札幌までご飯を食べに出ようとすると来られなかったのに。今日はタクシーに乗ってすぐに来られたよ。やっぱり真珠が怒っているんだって怖くなった。だから、返します。なんでもちょうだいと言ってごめんなさい。ママのことも許して、お願い。ママ、『アイツもアイツもみんな許さない』って病院にいても呪ってやるって、ずっと言ってるの。でも、浦和の叔母ちゃんとか叔父ちゃんとか、朋重とか、荻野のお嬢さんのところに仕返しに行きたい行きたいと念じても、眩しい光に遮られてなかなか先に行けない夢ばかり見るってまた怒っていた。そのうちに、怒った顔のまま喋らなくなったの。メリィが声をかけても天井ばかり見て、なにも話さない。もう芽梨衣、ひとりぼっちになるのかもと怖くなって……」
子供そのまま中年女性になった彼女が、くすんくすんと泣いてうつむいているだけ。
母親は退院の見込みがないどころか、メンタルの診察も必要になっているようだった。
これからメリィはひとりで暮らしていかねばならなくなったのだ。これはあれか、黒真珠が『この娘と母の縁切り』を施し始めている?
でも、この子(歳上女性だが)一人で生きていけると思えないと、千歳はうっかり案じてしまった。
「主任。芽梨衣さんに、今日のランチプレートを持ってくるように、細野さんに伝えてくれる」
「わかりました」
伊万里も『仕方ねえ』という諦め加減の渋い顔で動いてくれる。
腹は立つが、神様がそこまで追い込んだら、伊万里ももう言うことはなにもないのだろう。
伊万里の伝達で、細野が入室。トレイを持って『荻野こもれびカフェ』で出しているランチプレートを持ってきた。
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