⑱食べられない!

6/7
前へ
/916ページ
次へ
 日替わりパスタとサラダ、スープに、荻野製菓のカフェ限定ミニスイーツがセットになったものだった。  千歳には紅茶を持ってきてくれた。 「これ、食べていいの」 「どうぞ。食べるものにお困りのようでしたから。お一人で心細かったでしょう」  そこでまたメリィがわんわんと泣き叫んだ。もううるさくてうるさくて、千歳も伊万里も耳を塞いだが、細野だけが平然として伊万里の横に立って澄まし顔。 「あんなに悪いことしたのに~。だって、ドロボウみたいに、お嬢さんの家に押しかけたんだよぉぉぉ。こんなすごいジュエリーを無理矢理持って帰ったんだよーーーぉぉお」  千歳もため息を吐く。悪いことだとわかってはいたのだなと。でもママがすべて『悪いことをしても平気。手に入れた者勝ち』という負けナシの連勝人生だったため、自分たちはそれでいいのだという思考に染まってしまったようだ。  それに。食べることに不自由になったのは、まさに福神様からの天罰、いやもしかすると、食を司る神でもある保食神様の怒りだったかもしれない。 「もう、おわかりですよね。食べ物を粗末にしたことを、私の自宅で見ていた神様がいらっしゃったんですよ、きっと」 「お菓子を踏んづけたから?」 「そうです。あと、虫を入れると、お母様が言っておりましたでしょう。あれもです」  彼女が押し黙る。 「ごめんなさい。もうしません」 「温かいうちに、どうぞ。おかわりも遠慮なく」 「う、うう……。いただきます」  久しぶりに出来たての料理を食べるのか、ほんとうにお腹を空かせた子供ががっつくように食べ始めた。
/916ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5112人が本棚に入れています
本棚に追加