⑱食べられない!

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 お上品なカフェのワンプレートランチなので、あっという間に終わりそうだった。伊万里がそっと出て行き、今度は違うメニューのランチセットを持ってきた。  夢中で食べている彼女のそばに置かれていたジュエリーケースを、細野がそっと回収をして、千歳の手元に持ってきてくれる。  無事に戻って来た黒真珠の指輪を、千歳は確かめる。  お疲れ様でした。長旅に行かせて、申し訳なかったです。目を瞑って、小さく一礼をした。  神様たちは、この従姉だけは、母親から引き離せばまだ救いがあると思って、千歳のところまで連れてきてくれた気もした。  だとして。さて、どうする。  考えあぐねていると、細野の携帯に連絡が入ったようで、また外に出ていった。  到着したのかなと、千歳はふたたび背筋を伸ばして待つ。  細野がエスコートして、ドアを開ける。 「待たせましたね。千歳」  祖母の『千草』だった。今日も着物をきっちり凜々しく着込んでやってきた。  千歳も席を立つ。 「会長、お待ちしておりました」  伊万里が千歳の隣にある椅子をさっと引く。孫ではあるが、ここでは主任という立場でのキビキビとした気遣いを見せている。そのせいか、祖母が満足そうな笑みを浮かべ、椅子に座った。やっぱり孫がきちんと仕事をしていることは嬉しいのだなあと思えた瞬間で。ピンとした空気を作り出す祖母なので、ほんの少しの和みが生まれて、千歳もホッとする。 「そちらが、朋重君の従姉さん?」 「はい。芽梨衣さんです」 「そう」  祖母の怒っているのか、怒っていないのか、よくわからない視線が芽梨衣に注がれる。  このよく読み取れない目線をしている時が、実はいちばん怖いと千歳は思っている。
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