⑲最後のご縁

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 だが、メリィもよほど堪えたのか、その人がどうであれ頼れる人が現れたのは救いだったのか。祖母の千草を見て、また涙をぼろぼろとこぼした。 「メリィ、働いたことないから。我慢できないかもしれない。仕事すると虐める人にも会うかもしれない。そうなったら我慢できない……かも」 「そうならない働き口を探します。できる、できないはともかく。芽梨衣さんは、なにがお好きですか」  そう聞かれ、芽梨衣が一生懸命に考えている。  毎日、時間に縛られず自由気ままに暮らして、着飾り、食べて、ずる賢く生きてきた人生のなかで、彼女が他に欲した事柄などあったのだろうか。 「ママの、着る服を、選ぶのが好き、でした」  欲望で穢れた日常生活の中にあった、唯一の彼女の純真。千歳にはそう思えた。それになぜか胸が詰まって、泣きそうになった。そんな親しか選べなかった彼女の、母を想う気持ちと、そこにある華麗な衣服への憧憬(しょうけい)。  それは祖母にも伝わったのか。祖母がうっすらと優しい笑みを浮かべているのを千歳は見た。 「わかりました。優しく働けるお洋服屋さんを探しておきます。ママではなく、いろいろな人に、素敵なお洋服を選ぶことができますか」  メリィは黙っていた。働くことなど自信はないのだろうし、いままですることもなかった自分の力での生活することにも恐怖心しかないのだろう。 「少しずつ頑張っていけば、よろしいのですよ。千歳、準備や手配をしてあげて。細野も。あとはよろしく」 「わかりました。お祖母様」 「かしこまりました、会長」  芽梨衣のその後は、祖母主権で、千歳と細野に手配や監視を任されることになった。  細野がひとまず身なりを整えるためと連れ出すことに。芽梨衣が力なく立ち上がる。まだきちんと御礼を言えない彼女だったが、それでも、祖母に一礼をして細野と退室をした。
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