⑳両家に幸あれ

1/8
前へ
/916ページ
次へ

⑳両家に幸あれ

 紅葉が終わって、一気に雪が積もり始めた北の都市、札幌。  この頃になると、朋重は元々住んでいたマンションを解約して、千歳と一緒に住むようになっていた。  ダイニングテーブルに置いているスマートフォンから、ずっと着信音が鳴っている。  首元を冷やさないようにマフラーを巻きながら、千歳は顔をしかめる。 「ああ、うるさいな。伊万里ったら」 「いいよ。俺が先に駐車場に行くよ」 「ごめんなさい。すぐに行くから」  彼が千歳の頬にキスをして、いつもの朗らかな笑顔で玄関へと出て行った。  千歳も急いでバッグに必要なものを詰め込み、戸締まりをして後を追う。  地下の駐車場へ到着すると、朋重の黒いSUV車の前で、伊万里がぶーぶー言いながら待っている。 「姉ちゃん、おっそーい、遅い! 早く行こう、早く」  小学生の時と変わらないのではないかと言いたくなるほどに、子供っぽい地団駄を踏んで待っていた弟に、姉は苦笑い。  一緒に仕事をしている時は凜々しい大人の顔で頼もしいのに。こと『一緒に食べること』になると、伊万里はとたんに我が儘な弟に変貌する。 「伊万里君、そんなに慌てなくてもまだ時間あるよ」 「えー、俺、もう腹減った」 「いつも腹減っているだろ。それとも、まさか、お腹を空かせてきたとか言わないよな」 「空かせてきたよ、朝飯ぬき!」 「抜かなくても、本気を出したら千歳並の戦闘能力発揮するんだろ」 「えー! なんか、最近、朋兄ちゃん意地悪!」 「いやいや、そうじゃなくて。慌てなくても食べられるから、そう興奮するなと」  とにかく車に乗る――と、義兄になる朋重に、伊万里は後部座席へと押し込まれた。
/916ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5114人が本棚に入れています
本棚に追加