5114人が本棚に入れています
本棚に追加
⑳両家に幸あれ
紅葉が終わって、一気に雪が積もり始めた北の都市、札幌。
この頃になると、朋重は元々住んでいたマンションを解約して、千歳と一緒に住むようになっていた。
ダイニングテーブルに置いているスマートフォンから、ずっと着信音が鳴っている。
首元を冷やさないようにマフラーを巻きながら、千歳は顔をしかめる。
「ああ、うるさいな。伊万里ったら」
「いいよ。俺が先に駐車場に行くよ」
「ごめんなさい。すぐに行くから」
彼が千歳の頬にキスをして、いつもの朗らかな笑顔で玄関へと出て行った。
千歳も急いでバッグに必要なものを詰め込み、戸締まりをして後を追う。
地下の駐車場へ到着すると、朋重の黒いSUV車の前で、伊万里がぶーぶー言いながら待っている。
「姉ちゃん、おっそーい、遅い! 早く行こう、早く」
小学生の時と変わらないのではないかと言いたくなるほどに、子供っぽい地団駄を踏んで待っていた弟に、姉は苦笑い。
一緒に仕事をしている時は凜々しい大人の顔で頼もしいのに。こと『一緒に食べること』になると、伊万里はとたんに我が儘な弟に変貌する。
「伊万里君、そんなに慌てなくてもまだ時間あるよ」
「えー、俺、もう腹減った」
「いつも腹減っているだろ。それとも、まさか、お腹を空かせてきたとか言わないよな」
「空かせてきたよ、朝飯ぬき!」
「抜かなくても、本気を出したら千歳並の戦闘能力発揮するんだろ」
「えー! なんか、最近、朋兄ちゃん意地悪!」
「いやいや、そうじゃなくて。慌てなくても食べられるから、そう興奮するなと」
とにかく車に乗る――と、義兄になる朋重に、伊万里は後部座席へと押し込まれた。
最初のコメントを投稿しよう!