①ありえないプロポーズ

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 けっして自己本位で物事を選ぶ人物でもなく、息子を溺愛しているわけでもない、『家』を案ずる気苦労を背負って責任を担ってきた聡明な人だ。なにより、暴君三代目の夫が病に伏せるようになってから後、跡取り息子の若い彼が見事に事業を展開させている手腕も知れ渡っている。  一目置かれる若手経営者であることは、事業界隈では有名な話だった。そんな男がマザコンなんて汚点に甘んじるとか、聡明なお母様がマザコンとして育てるだなんて誤った選択をするはずもない。いや、杏里自身が、この奇妙な展開に巻き込まれ、そんな人たちじゃないしっかりした上流社会の人間だ――と信じたい要素を探して並べてなんとか自分は正常だと言い聞かせたかったのかもしれない。  そしてさらなる条件もまだ残っている。 「それから愛人が許してくれること、これも第三条件。彼女は……、美紗にはあなたのことをきちんと話しています」  その愛人にも杏里は会うことになった。円山にある老舗割烹の和室で三人向きあって食事をすることになり、なんの憚りもなく彼は『愛人も紹介しますね』と持ちかけてきたのだ。それには杏里も唖然とした。  彼の愛人に会うことになってしまった。 ※今回は少しトーンを落としてシリアスになりますが 第3話もよろしくお願いいたします。
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