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③契りの日
結婚に幸せなんて見出そうとは思っていない。
男と女が愛しあって結婚したところで、愛は冷めて夫と妻という関係が残るだけだ。
そもそもセックスにも絶望している。あんなものいい気持ちと言える関係もきっと一時だ。
それさえ気にしなければ、跡取り息子の妻という立場も仕事だと思えばいい。
私は居場所がほしい。実家など、なんでも自分の思い通りに体裁を整えたいうるさい父と、その父に逆らえずおろおろしている母との間に挟まれた娘が翻弄される人生しか残っていない。
最初の見合いもそうだった。気にそぐわない男と結婚するために、その男に合わせ気を遣い、父に叱られないようにとおどおどして、女性としての初めての体験もその男に捧げた。その時の痛みも気持ち悪さも、男の醜さも忘れていない。
どこが美しいのだろう。甘美なのだろう。
その醜くなった男が杏里の実家に告げたのは『結婚はしない』という返答だった。
そこまでのことをしておいて。でも父は彼の実家とは立場が弱く、なんの抵抗も対抗もしなかった。
父が怒ったのは娘の杏里。『おまえ、なんの粗相をしたんだ!! この役立たず!』、娘があれだけ気を遣って身体まで明け渡したのに……。嫌な思いをしたのに。この言われようだった。
いや、今に始まったことではない。幼少の頃から、杏里も弟もこのような理不尽な父親本意の仕打ちを受けてきた。
昭和育ちの男特有の亭主関白、杏里の実家はまさにそれで、後の世でいうところの『毒親』だった。
そして、樹の父親も、美紗の母親もだった。
樹の父親は暴君で、美紗の母親は男にだらしがないシングルマザーでネグレクト気味だったとか。
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