④つまらない女

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④つまらない女

「お久しぶりです。お元気のようでなによりです」  ひとまず杏里は、面識がある方達という体で挨拶をした。  元見合い相手など、お相手のお嬢様とお父様の耳にはいれないほうがいいだろう、ただの知り合いの顔をしておこうとした。 「そちらはどう。まだ独身?」  だから。わざわざお見合い相手の前で、お見合いした相手のその後を探るものなのか、と杏里は久々にこの男が放つ嫌な空気を感じとってしまう。  どう答えよう。独身と言えばこの男の自尊心が保たれるだろう。でも婚約中といえばどうなるのか。そもそもお見合い相手の前で別の女性がどうなったかなど聞くだなんて非常識だと言いたい。 「お待たせ、杏里さん。……どうか、しましたか」  そこにホテルの顔見知りと挨拶をかわしていた樹が現れた。  仕事で知り合いのようだったので、杏里は『婚約者です』ときちんと紹介をしてもらった後、『あちらで待っています』と気を利かせて、仕事関係の男性ふたりとは距離を置いていたのだ。そこで、この忌まわしい男と再会してしまった。  樹も目の前に揃っている一行を訝しげに見つめている。なにせ若い女性は一等の晴れ着を着込んでいるのだから、正式ななにかの後だとも察したようだった。 「杏里さんのお知り合いかな」 「はい。父の知人です。お久しぶりに会いましたのでご挨拶を」 『父の知人』というワードだけで、樹の表情が僅かに固まった。  杏里の父がすることは、すべて杏里にならないことだったことを既に熟知してくれているからだ。 「そうでしたか。では、行こうか。予約の時間があるから」 「はい」
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