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姑自身が愛のない政略結婚をしたせいか、愛しあう女性と結婚すべきという甘い気持ちなど持ち合わせていないとのことだった。
息子の妻となる条件は、愛する女性ではなく、『息子を夫として社長として助け合っていける女性』。
そんな心持ちの姑が、嫁として好待遇で迎え入れてくれたことは、杏里としても安堵している。それに仕事をさせてくれることにも感謝をしたい。杏里もそのつもりだったからだ。
「杏里さんもひとつ起業をしてみなさい。なにかあった時、あなたの糧になるようにね。起業経験は樹もしているから、教えてもらうといいわ」
「わかりました。お義母様。よろしくお願いいたします」
すんなり受け入れる杏里に、義母は満足そうだった。
この日はそれだけ念を押したかったようで、息子が淹れた紅茶を『合格ね』と茶々を入れて飲み干すと、さっさと退室してしまったのだ。
社長室に樹と二人だけになる。
「……ということになったけれど。杏里はなにかやってみたいことがあるかな」
義母の江津子から『あなたは結婚後、妻となっても大澤のために事業を手伝う妻になるのよ』と告げられてから、いろいろ考えていた。
夢を見て語っても良いのならば。杏里はこの小樽を見てやってみたいことがあった。
「小樽にちなんで。ガラス工房と、工房と連結したガラスのセレクトショップをしてみたいです」
ここでは既にあるものばかりだった。
だが杏里は外商部にいる時から、ガラス製品に興味があった。
あともうひとつ。義母の江津子が、そんなガラスに興味を示していた杏里に秘蔵のコレクションを見せてくれたのだ。
それはベネチアンガラスのビーズだった。
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