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『私も好きなの。これ独身の時から少しずつ集めたのよ』
ビロードの保管ケースには、正方形に仕切られたそこに、いくつものベネチアンビーズが収められていた。様々な柄と色合いに異国の空気を醸し出す模様たち。
『素敵ですね!』
『でしょう。小樽でもたまに素敵なトンボ玉が見つかるの。これが私の慰め。結婚して嫌なことがたくさんあったけれど、これがひとつ増える度に頑張れたのよ。あなたにもそんなものがあればいいわね』
その中から『嫁に来るあなたに』と、大事なコレクションのひとつを杏里に譲ってくれたのだ。これからの杏里のお守りだ。
もう実家の両親を頼ろうとも思っていない。でも婚家にばかり守られているわけにもいかない。この義母が言うとおりに、杏里も自立していかねばならない。その心意気を、姑から授かった。
それもあったのだと思う。
ベネチアンガラスに負けない、そんな小樽ガラスでありたい。
そんな夢を描き始めていた。
だが、それには社長である樹の許可がいる。
彼は、どう思うのか……。
「うん。いいんじゃないかな。俺がやっている観光業務ともマッチする。だったらまずは工房から立ち上げなくてはならないな。立ち上げまで手伝う。オーナーは大澤杏里とするから、やってみたらいいよ」
「ほんとうですか。頑張ります。ありがとうございます」
結婚前から、杏里は大澤倉庫・観光グループの業務に携わることになった。
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