⑦1on2

4/8
前へ
/916ページ
次へ
 なのに。夫が連れてきた。しかも住まわす?  すると優吾が静かに杏里に告げた。 『あ、俺。女性には興味がないんです。所謂、ゲイってやつで。なので義姉さんの身に危険はないので、あり得ないので』  え、え、え!? 悪阻の気持ち悪さが吹っ飛んだ瞬間だった。  樹も『隠していたわけじゃないんだけれど、弟自身のことだから、こいつから機会があればと自分から言わせたいと思って』とばつが悪そうにしていた。  樹も美紗も、優吾も、おなじ地区で育った幼馴染み。樹と美紗が三歳年上だが、優吾のことは美紗もよく知っていて自然と受け入れてきたらしい。ただし、大澤兄弟の父親は、古い時代の男故に、カミングアウトした次男のことを猛烈に非難をして『勘当』を言い渡した。  義母の江津子はどうだったのかというと、『ひとまず外に避難しなさい。あの人が力を失うまでの我慢よ』と、そこは母親か、別の住まいを密かに準備してかくまったそうだ。  新しく嫁入りした杏里に気持ち悪がられたらいけないからと、余計な発言は控えていたとのこと。 『元警官なんだ。優秀な刑事だったんだけどさ。男に囲まれた生活の中で、人知れず恋い焦がれた相手が既婚者(♂)だったらしくて、辛くて退職したんだ。いまはその時の経験と伝手を使って探偵をしている。護衛としても抜群だからいいだろ』 『俺、赤ちゃん産まれるの、すっごく楽しみにしているんです。手伝いますから。義姉さん、なんでも甘えてください!』  きょとんと呆然としている杏里は、わけがわからないまま『はい……』と返答していた。  実際に、優吾との同居は杏里にとって良いことばかりだった。
/916ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5112人が本棚に入れています
本棚に追加