⑦1on2

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 仕事で忙しい樹と義母に代わって、優吾は家事を完璧にしてくれるし、坂が多い小樽の街だからと、検診の送り迎えも、買い出しもてきぱきとこなしてくれた。実家の母親? 父親の顔色ばかり窺って自ら行動を起こせない母親なんか頼りにならない。  杏里は『こちらの家がなんでもしてくれるから大丈夫』と実家を遠ざけている。  父親はやや不満はあるようだが、お腹の子が女の子だったらまた『大澤家のような家で跡取りにならない女児を産むとはなにごとだ』と怒り出しそうなので、これまた避けている。  武藤の実家は、なにか言いたげにしているが、義母も樹も優吾も言い負かす力を持っているので、なんだかんだと丸め込んで杏里から守ってくれていた。  それに、父は文句が言えないのだ。大澤家から結構な援助を毎月もらっている。樹がわざとそうした。それで文句も言えないようになるだろうと。こちらの家の機嫌を損ねると援助を切られる。娘からも完全に切られる。そっとしておくのが無難。だから、母も義母の『お任せください~。当家の跡取り孫ですから~』に負けて母親としての行動ができなくなっている。  これまで、杏里を頭から押さえつけ価値観を押し付け、ひとつも助けてくれなかった両親にいまさら望むものなどなにもない。  男であって、女性にとっては男ではない同い年の優吾とはすぐに打ち解けられた。  樹がいない日も、優吾が話し相手になってくれたし、家にいるときも寂しくもなかった。杏里の男友達のような義弟となった。
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