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なによりも、息子ふたりの子育てと事業主としての両立に必死だった。
忙しい樹も息子たちには良きパパで、息子もパパ大好きだった。子育ても率先してくれる。子供たちが乳児だったころも、上等なスーツを着ているのに、小さな子に離乳食をわたわたとあげている姿など、彼が冷徹な社長だと思っている人々には想像もつかないだろう。
もちろん、義母の江津子も、息子の樹に似て産まれた孫ふたりにはデレデレだった。あまあまの叔父ちゃんもデレデレ。大澤家は毎日和やかだった。
夫と義母、義弟が甲斐甲斐しく息子の世話を手伝ってくれる一方で、美紗が取り残されているのではと、杏里が密かに案じていたのもこのころ。
長男の『一颯』の手を引いて、産んでしばらくの次男『一清』をベビーカーに乗せて、ちかくの海が見える公園までとでかける。よく通っている公園だった。
そのうちにそこで再会したのだ。美紗に。
日傘を差して、彼女こそ上流社会の奥様ではないかと思うほどの上品さを纏った姿で彼女は海を背景にして立っていた。
彼女と会うのはこのときが三回目。
結婚して出産して、初めて夫の愛人と対面する。
1on2、女二人が向き合う最初の日でもあった。
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