⑧穏やかに淡くなる

3/8
前へ
/916ページ
次へ
 これも同級生にはよくあることだが、クラスの美男と美女はすぐに惹かれ合うものだ。周りもあたりまえのようにして、容姿が釣り合うふたりは彼氏と彼女になるものだといつのまにか認めていく。  樹も美紗も当然、お年頃同士、意識をして距離を縮めていく。会話をかわすようになると、互いの親が普通の親ではないことを知る。苦渋の日々を十三、四歳のふたりで慰め合い、励まし合い、助け合う日々が始まる。  美紗と樹は自分たちのことを『腐れ縁』だという。  だが杏里でも生い立ちを聞けばわかる。子供が子供らしくいられる時期に心をズタズタにされて、子供ながらに気持ちを寄せ合って耐えてきた戦友だということが。そのうちに、成長に伴い、ふたりが男と女として若いままに惹かれ合うのも自然なことだったのだろう。  樹は札幌市にある高校へ通うために市内中心街へと小樽を出て、美紗はそのまま小樽市内の高校に進学。週末にJRの列車に乗って、互いに会えるよう行き来していたという。  美紗は高校生のころから、既に男の目線を集める容姿になっていたらしく、彼女が望まないトラブルも起きるようになると、樹も気が気ではなくなっていったそうだ。  特に酷かったのが、母親がとっかえひっかえ自宅に呼び込む男たち。よく聞く話だが、母親よりも年頃に成長した初々しい娘へと、男達は目移りをしてその隙を狙う。美紗はいつも警戒し、恐ろしい目に遭う度に樹に連絡をしていたそうだ。いつもギリギリに逃げ切る。だがこんな毎日にすり減ってきた美紗の精神が疲弊して、徐々に逃げる気力を失ってくる。
/916ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5111人が本棚に入れています
本棚に追加