⑧穏やかに淡くなる

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 そんな時に、ついに娘に嫉妬した母親が、恋人ではない男に娘を売ろうとした事件が起こった。  そこで救済に乗り出したのが、樹の母親だった。すぐに保護をして警察に通報、児童相談所にも通報。彼女の母親は買春行為で逮捕されたとのこと。  やがて二人は高校を卒業する。樹は道内の大学へ進学。美紗は就職をした。そのころ、成人を目の前にして大人の熱愛を交わすようになった二人に子供ができた。  結婚を決意したふたりは、大澤の父へと許しを請いに挨拶に出向く。  だが、大澤の父は許してはくれなかった。  美紗が樹との結婚を許されなかったのは、母親に前科がついていること。美紗の生い立ちだった。当時、まだ精力旺盛な大澤の父だったから鬼の如く激昂し『容姿がいいだけで嫁になれると思うな。知性もない母親がいる娘など認められるか』と、大澤の家から手荒に叩き出されてから近づけもしなくなった。それどころか、父親が『俺の愛人になれば不自由ない生活をさせてやれるぞ』と樹がいないところで迫ってきたのだとか……。  それから美紗は怖くて大澤家に近づけない。  嫁になるなど、足が震えて、大澤の家に近寄れないほどのPTSDを起こすようになった。そして、このショックで流産を起こす。  それでも樹は美紗を支えて別れなかった。樹にとっても、美紗は自分を理解してくれる唯一の女性と信じていたからだ。  またふたりに子供が出来たが、この時も、流産となる。ここで二度と産めない身体だと美紗は診断をされる。  
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