⑧穏やかに淡くなる

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「行く高校も父が勝手に決めました。女は大学に行かなくていいと言われ学費が欲しければ自分で稼げと言われました。生意気な女は嫁には行けないと散々言われながら、奨学金で意地で行きました。百貨店に就職した時も鼻で笑われました。どうせ就職するなら国家公務員か看護師か銀行員だと言われていましたので。その就職を阻止するように、見合いをねじ込まれました」 「あ、……北熊ドラッグのお嬢さんとお見合いをしていたってクズ男のこと」  やっぱり樹から聞いていたんだなと思いながら、杏里も苦笑いをこぼしながら頷く。 「そうです。私の処女を下手くそに奪って、手酷く捨ててくれた男です。父に凄く怒られましてね。どんなことをして機嫌を損ねたんだって」 「やなヤツ。なにそれ。お父さんも酷いわね。だからなのかな。樹、すっごく怒っていたのよ。なんだあいつ、自分が見合い中の時に、自分の前の見合い相手に声をかけるとか馬鹿じゃないのかって。そいつ自分から地雷ふんでいたからさ、俺が爆破させたとか。ずーっとぶつぶつ言っていたのよ」  俺が爆破させた。当時を思い出し、杏里は吹き出しそうになった。  クールに華麗にスマートにやり込めていたのに。樹の中では大爆破させ、彼の背には大炎上の業火が舞い上がっているほどに熱くなっていたと言いたいらしい。似合わないなと、夫の珍しい様子に笑いたくなってきた。こんなところも妻としての余裕が出てきたのかもと感じたりもする。 「そんな男と結婚しなくて良かったわよ」 「そうですね。ほんとうに、よかったです。その後も、意地になって仕事ばかりの二十代を過ごしてきましたけれど、それがいま役に立っています」
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