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⑨夫の子犬ちゃん
女ふたりが連絡を取り合うようになると、杏里の仕事の合間に、一緒にランチを取るようになった。
子供と一緒に公園に行くことも。日帰り温泉に行って、贅沢にエステを堪能して杏里のリフレッシュ休暇の相手をしてもらうことも。
そんな女たちのことを気づいていたのかどうか、そうすると男の生き方も変わってきた。
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優吾に子供たちを預けて、美紗と食事に出かけたときだった。
「ねえ、最近。樹がおかしいことをしているの。杏里ちゃん、気がついている?」
一人では焼き鳥屋に入るのが恥ずかしいという美紗のリクエストに応え、今日は女ふたり、冷酒を囲んで遠慮なくがつがつ食べている。いつもフェミニンで上質な服装を好む美紗が、またため息をついて冷酒のグラスを口元で傾ける。
対して杏里は仕事帰りで、紺のワンピーススーツ。ふたりとも品格を保つために品質重視の服を選んでいるが、対照的なファッションだった。
杏里もレバーの串を頬張りながら首を傾げた。
「なんにも。いつもどおり、仕事をして、あなたの家で数日過ごして、こっちにも子供と過ごすために帰ってくるというかんじだけれど?」
「なんかね。あいつの携帯に女の子からメールが届いているんだよね。携帯を開いて見ているところを遠いところからじっと見ていたら、絵文字使いが派手なの。ハートもいっぱいあった」
「え……!?」
杏里にとっては寝耳に水。大澤倉庫の威厳ある社長で、自宅では頼りがいあるお父さん。杏里には仕事の相棒で、いつだって落ち着いて凜々しくそこにいる。女の影なんて、美紗しかちらつかない。いや、仕事をする妻として結婚したから、そもそも自分は女の勘が鈍いのか。そう思ってしまった。
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