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「ああ。上手く立ち回るんだよ。胸がスカッとすることがなんどかあってね。そのかわり、将来、うちの稼ぎになることを約束させたんだ。うちの観光グループのどこかに、ネイルサロンを置くことができないかなと。俺はネイルはしないから、そこのところ、専務が見極めてくれないか。将来に関する援助はそれからだ」
こんなことを始めていたのか。
そこで、杏里はふと思ったのだ。この夫は、力ない困っている女性を見ると放っておけない性分を持っている?
美紗は悪環境の家庭から抜け出せた。杏里も毒親から逃れてキャリアを積む環境をもらった。今度は、この若い子?
「頼むよ」
「かしこまりました」
杏里は『専務』として答えた。
ずるいな。男として怪しいと思わせながら、ビジネスとして『ちょっと面白い』と興味をもたせて、杏里に女として『私たちと同じように抜け出るように』と心をくすぐらせるだなんて。
専務として引き受けた以上、杏里も動かねばならない。
その夜。杏里も仕事用にと持っている自室で、美紗に連絡をする。
「一緒に会ってくれる?」
『わかった。私も行く』
ネイルなんて杏里もしない。
美紗のほうが見る目があるだろう。
この時からだ。夫が若い女の子を拾っては援助をするようになったのは。世間で騒がれ始めた『援助交際』と思われそうだが、れっきとしたビジネスを正式に挟み込んで、最後は正妻であって専務の杏里に判断させるということをやりだすようになった。
このことを、美紗は後に『樹が拾ってくる子犬ちゃんたち』と喩えるようになった。
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樹が拾った子犬ちゃんと札幌で面会することになった。
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