⑩子犬ちゃん、ほしいものある?

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 もう樹には助けてもらいたくないのだと。子犬ちゃんとおなじ扱いなど嫌だと妙なプライドを発揮したのだ。  そこで杏里も気がつく。あ、私を頼っているのかと――。 「わかった。だったら、どんな方法でもいいから、やりたいイメージを教えて。夢を見すぎるぐらいのものでもいいから。白い紙にイラストを書いてもいいし、考えていることを箇条書きでもいいし、好きなものを雑誌から切り抜いて貼り付けても良いから」  美紗は目を輝かせ、杏里の指示通りにすぐに『夢の提案スケッチ』を仕上げて持ってきた。  それがあの『坂の上のイタリアンカフェ』だった。意外としっかりとイメージ出来ていて、雑貨選びのセンス、店の間取りもプロが描けばすぐに形になりそうなものだった。ガラスのショップとガラス工房を経営している杏里なら、その気になったらすぐに準備できそうなほど、光るものがあった。  しかも美紗は『気になるシェフもいるの』とそこまで目星をつけていた。変な言い方だが、樹に連れられてあちこちレベルの高いところに長いこと通っていたことが、美紗の肥やしになっていたようだった。  美紗のプライドも大事にしたかったが、今度の杏里は動く前に、社長である夫に許可をもらうため、きちんと報告することにした。  美紗の気持ちを告げスケッチを見せ、自分が作った企画書を渡して判断してもらうことに。結果は『やってみたらいい』だった。  出資は杏里がして、数年は杏里がオーナーとして開店をした。  シェフは美紗が一発でスカウトしてきたので驚いた。  小樽の海が見える坂の上。そこでイタリアンのカフェを美紗が主導で営むことになった。杏里の指導の下、美紗は仕事をすぐに覚えていった。
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