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ただ、なんとなく、彼女に関しては違和感。あの倉重花南という年若い女の子は、妙に達観している雰囲気があって、ガラスを吹くことに鬼気迫る迫力も感じるのだ。どことなく、思い詰めているというか……。あの年ごろなら、もうちょっとはしゃいだり、若い故の誘惑に負けるような娯楽を楽しんでいる様子もない。ガラスだけが自分の生きる道と思わんばかりの入れ込みようだった。
遠藤親方に気に入られたのも、その強い思い入れが伝わったからだとも思うが、そんなストイックな親方でさえも『もうちょっと肩の力を抜いて、息抜きができないか』と案じている時もある。
それでも技術が追いつけば、姑でも素敵と言ってくれるほどのセンスがあることはわかった。
「母さんが来ていたのか」
「おじゃましていますよ、社長さん」
母親が訪ねてくるのも日常的なので、樹はなんとも思わず母に背を向けて書斎へと去ろうとしていた。だが、ちらっと見たテーブルにあるガラス製品に気がつく。
「なんだ、それ。遠藤親方のところの弟子の創作か」
「そうです。例の山陰からやってきた女の子が作ったものだけれど、お姑さんから見て、どう感じるか知りたくて持ってきました」
「ふ~ん。まだまだって感じだな。大きさが異なって七つもあるそれはなんだ」
「木蓮のキャンドルホルダーです。夜、七つ幻想的に浮かび上がるようなデザインになっているようですよ」
「へえ……」
夫の目の色が変わったのを見た気がした。嫌な予感しかしない。
それから少し日が経ちしばらく。ガラス工房にも定期的に訪問している。今日も煉瓦造りのガラス工房の事務所に入るなり、遠藤親方が困惑した様子で杏里に飛びついてきた。
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