⑩子犬ちゃん、ほしいものある?

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「え、夫がここに訪ねてきて、花南さんを援助したいって言いに来たの?」 「はい。彼女の助けになることで、いちばん役に立つことはなにかと仰せでした」  杏里は額を抱えて若干ふらっとよろめきたくなった。    事務所の応接テーブルにて、詳しく事情を聞いてみる。  突然、夫がアポなしでガラス工房に訪ねてくると、職人たちがガラス制作している工場を見学して、しばらくすると、事務室にて花南のことについていろいろ聞かれたとのこと。 『彼女、何も持っていなさそうだよね。アパートも質素で安いところみたいだし。もうすぐ冬になるけれど、もっといいところに移したほうがいいんじゃないかな。あと、職人になるための最良のサポートはなにか教えてほしい』と聞いてきたそうな。  遠藤親方の返答は。 「アパートに関してはそれはそうなんですけれど。職人になるための最良のサポートとなると、工房が存続すること、安定した生産が維持できる職場であること、製造したものを販売するルートが安定していること、あと給与ですかね。ですが花南だけ給与を上げるわけにはいきませんから、それは他の先輩職人の手前、絶対にやってほしくないと断固お断りしました。特別扱いされた花南の立場も悪くなります。これが最高の腕を持つ職人を引き留めるための給与アップならわかるんですけれど。未熟な新人ですよ」 「……親方のいうとおりです。ほんと、『夫』が申し訳ありません」 「いえ。なんとなく、奥様であるオーナーと、時々遊びに来る美紗さんから、最近の『社長のお楽しみ』を聞いていましたので、『これかあ』と納得しました」
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