⑩子犬ちゃん、ほしいものある?

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 子犬ちゃん1号だった『ススキノネイルちゃん』は、約束どおりに腕とセンスを磨いて、いまは独立開業。ススキノで札幌の若いOLさんやキャバ嬢を相手に安定した経営を成功させていた。  それと同様にと思ったのかもしれないが、花南はすでに美大で基礎を学んで卒業しているので学費サポートはいらない。職人の腕を上げるについても、大学の教授とともに創作活動をしていた時期もある。『職人になるためにサポートできる資金援助』となると、ひよっこでも職人だからなにもないし、ひたすら彼女がガラスを吹くだけが腕を磨くこと、お金は必要ない。彼女の環境をよくしてやるならば、親方が言うとおりにこの工房の職場環境を良くすることしかない。あとは若くて生活水準が低いようだから、そこのサポートならまだなんとか。 「花南さんには伝えたの」 「まさか。私もまだ直撃されたばかりで混乱しておりますのに」 「アパートについては私も心配していたのよ。わかった。私から彼女に『女の子だから会社の住宅手当として』、いいところに移れるからどうかと聞いてみる」  遠藤親方も『そんなことで社長が満足するのか、または、花南はべつに望んでいるわけでもないし』と心を乱していた。  そして杏里は思いきって、花南に『女の子が住んでも安心な物件に』と勧めたところ。『必要ありません』ときっぱり断られた。とくに良いところに住もうとも思っていないし、男を入れるつもりも一切ないらしい。ご実家のご両親はどう思っているのかと聞くと『私の自由にさせてくれるので、なにも言われません』だった。 「なにか、してほしいことはある?」
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