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形はシンプルだからこそ、綺麗に整っていて、デザインは彼女の良さが出ていた。
ころんとしたデザインは手にも取りやすい。持ち手がないが、飲み口がすぼまっているので、ワインを入れた後の香の広がり方も考慮した形になっている。
「いいわね。素敵だわ。すぐに売りに出せるわよこれ」
「ですよね! 花南も喜ぶと思います」
「よく思いついたわね。持ち手のないワイングラスという気軽さもセールスポイントになりそう。本来はワインの温度を保つために、指で触れないように持ち手がついているわけだけど。ちょっと気取りすぎなところがあるものね。あと洗浄する時もすごく気を遣う。持ち手がないだけで扱いやすそう」
「美紗さんのカフェで思いついたそうなんですよ。あちらの店も気軽さがウリでしょう。グラスにサングリアをぽんと出してくれる気軽さを見て、思いついたそうです」
なるほど。美紗の店で感性を刺激されてきたのかと納得だった。
あちらも前衛的な考え方でイタリアンを広めたいというシェフのコンセプトがある。それを理解して美紗が引き抜いてきたからだ。
そんなシェフの肩肘張らない食事の提案と、美紗のお洒落センスが、花南にも影響したとわかった。
「合格ですと花南さんに伝えてください。すぐ売りに出しましょう」
「わかりました。できれば、ラインのない無色透明のものをほかの職人につくらせて、こちらはグラスを薄くする技を駆使して量産したいんですけれど」
「いいですね。お願いいたします」
夫の援助などいらない子犬ちゃんで良かったと、何故か杏里は安堵したのだ。
その夜のうちに、今回の報告も夫に嬉しげに杏里は告げた。
しかし夫はまだ諦めていなかった。
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