⑪花香る

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 持って帰った花南のグラスを見て、満足げに笑むと、いつもの書斎のデスクで杏里に言い放った。 「間違いないな。数年後、彼女のための工房を造る計画でもするかな」  ……なんですって。数年後の子犬ちゃん計画を立てていた。  だから彼女はあなたの力など。いや、もうやめよう。  そうこの人にムキになってはいけない。そう思って結婚したのではないのか。  なのになんで、初めてイライラしてるのだろう。 ---❄  女三十半ば、社会で戦い抜いてきて、私は気が強くなっているのかもしれない。夫は、ただの外商販売員だった杏里に経営のイロハを教えてくれた人なのに。支えてきてくれた人なのに。理解してくれた人なのに。  今度の杏里は落ち込んでいた。生意気な心を夫に見抜かれていないか、恥じるほどに。  雪が降り始めると、今度はパーティーが多くなる。  年末にさまざまな取引先と集まる社交界的な慰労会が増えるのだ。  夫の樹の代から始めた観光飲食業の関係で、札幌・小樽近郊の飲食関係会社が集うパーティーに参加することになった。  そこで、ガラス工房の商品をセールスするために、展示をすることを許してもらえることになった。  飲食関係の会社ならば、自社のレストランにカフェを持っているところが多い。そこで利用してもらえばという杏里の目論見で、こんな時は夫が手を尽くして交渉を上手く取り付けてくれるのだ。  そこで杏里は、少し前の自分の不満を再び恥じて反省をする。  やっぱりこのやり手の夫なしでは、自分などまだまだ若輩で力もない中年犬なんじゃないかと思えて……。
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