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花南が言う『兄』は、その亡くなった姉の夫のことを言うようだった。
姉は交通事故で他界したようで、当時三歳だった男の子がお義兄さんと遺されたのだとか。ちょっと子育てを手伝う――は、取り残された幼児を家族全員で落ち着くまでサポートしてきたという意味らしい。
もしかして。実家が大変だから、あまり頼らないようにしている?
雇い主杏里はやっとその思いに至る。花南が若くして落ち着いているのも、姉が逝去しているせいもあるのかもしれない。
リビングに通すと、優吾が上等なお茶を煎れて待ち構えていた。
まずはリビングのソファーでゆったりくつろいでもらう。
子供たちが始終花南にまとわりついていたが、嫌な顔ひとつもせずに、優しく息子たちに対応してくれる。
その合間に、優吾が準備してくれたお茶を花南が味わう。
ティーカップを持つ仕草、そっと口に運ぶ仕草――。ふわっとそこに広がった花のような芳しさ。それに気がついた杏里は見とれていた。それは優吾もだった。品格ある仕草だった。ただ無骨にガラスだけを吹いてきた女の子が自然に持っているものではないと感じたのだ。
「あら。お客様? ぼっちゃんたちにシュークリーム買ってきたんだけど」
またふらりと、姑の江津子が訪ねてきた。
だがグッドタイミング。花南にまとわりついてばかりいた息子たちが『お祖母ちゃん、お祖母ちゃん、しゅーくりーむ、くりーむ』と飛びつき先を変更してくれたからだ。優吾もホッとして、子供たちをダイニングへと連れ去ってくれた。
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