⑪花香る

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「もしかして、そちらが噂の花南さんかしら」  いまは副社長に控えている義母が、今日もエレガントなスーツ姿で花南の前で胸を張った。なにげに人に威厳を張る義母の威嚇というか、もうこの人の癖みたいなものだから、杏里は苦笑いをこぼす。  助け舟を出そうとしたが、花南は怯える様子もなく泰然と姑に挨拶をした。 「お邪魔しております。副社長」  姑もなにか感じ取ったようだった。 「あなたの作品を見せていただきました。マグノリアのキャンドルホルダー、惜しいわね。いつかあれが製品と認められるようになったら、このおばばも欲しいくらいよ。頑張ってね」 「ありがとうございます。精進いたします」 「認められたワイングラスも素敵ね。今度、ひとつほしいわね」  花南が困ったように杏里へと視線を向けた。 「わかりました。親方に依頼して、お母様用に彼女に吹いてもらいますね」 「あら、うれしい。楽しみにしておくわね」  ダイニングから子供たちが『ばあば、ばあば』と大合唱を始めたので、義母もすっかり表情を崩して、孫に呼ばれる方向へと消えていった。  なんか堂々としていたな。あの義母を目の前にして、おどおどしない二十代の娘さんなんて初めてみたかもと思った杏里だった。  紅茶でひと息の後、杏里の部屋で似合いそうな服を試着させた。  白やベージュなど、明るい色で若々しく見せようと思ったのに。杏里が『これは……』としっくりしたのは、黒いドレスだった。そう派手な装飾もなく、露出もない、胸元は艶があるサテン、スカート部分はフレアラインで総レエス、ボリュームが出ているものだった。  急に彼女が上品な空気を纏った。その驚き――。  いちおう姑にも見てもらおうと、着せたまま花南をダイニングに連れて行った。
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