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そこに。日中なのに何故か夫がいた。
「樹さん、どうして」
意味深な笑みを浮かべる夫が、ドレスを着込んだ花南を見つける。
夫もはっと驚き、茫然と立ち尽くした様子がわかった。
夫も気がついた。この若い彼女が、ただの若い女の子ではないかもしれないことを。
それはそこにいる姑も、優吾もだった。
彼女はこんな服を着慣れている。上等な紅茶も飲み慣れている。それがわかる者たちがここにいる。
フォーマルな黒ドレス姿になった花南に、夫が目を輝かせて歩み寄る。
「これはこれは。お似合いだ」
子犬ちゃんを見つけた目だった。
工房オーナーの夫だからと、花南は楚々と『ありがとうございます』と頭を下げたが微笑んでいなかった。彼女が警戒しているのが杏里に伝わってきた。
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