⑫花ひとつの力

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⑫花ひとつの力

 彼女は……。男のこともよく知ってる。無垢な女性ではないことが杏里にはわかった。男が女になにかを欲するときの獰猛な輝きを見抜ける力を持っている?  夫は、この若い彼女は磨けば磨くほど輝く特級の原石だと見抜いて、『この手で育てたい』という欲求を抱いたのが杏里にもわかった。 「せっかくだ。勉強のために、なにか美味しいものでも食べに行ってみないかな。北海道にきたばかりだろう。ご馳走するよ」  そう言われたら、二十代の女の子は喜んで付いてくる。……子が多いのだろう。 「小樽や積丹(しゃこたん)の海の幸を取り入れたフレンチなどどうかな」  花南が黙ったまま。いつの間にか、ダイニングテーブルにいる優吾も姑の江津子も神妙な顔つきで固唾を飲んでいるのがわかる。 「いえ。実家に帰れば、父が年に一度、食べさせてくれるので充分です」 「ああ……、山陰も海の幸が多いのか。では、美術館巡りのドライブとかどうかな。いろいろ見聞を広めると役に立つだろう。なんなら旅行に行ける援助もするよ」 「北海道に来たこと自体が、私には大旅行の途中です。札幌と小樽を見て回るだけで充分です。休日はそうして、あちこちでかけています」  杏里も優吾も、義母も。ここ数年の樹の『趣味』を知っている。  なんだか読み取れない不思議な女の子を、樹が『援助するおじさん』の権利を得ようと必死に口説き落としているところを眺めている。
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