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優吾の調べより先に、倉重花南の正体が判明した。
これまた遠藤親方からだった。
無事にパーティー参加も終わって、花南が会場で男性に言い寄られたりなどしていたことを案じて、また杏里は工房へと顔を出していた。
ついに雪が降り積もり、花南が兄弟子たちと雪かきをしているそこに、杏里は訪れる。
また事務所で、遠藤親方が行ったり来たりしながらうろうろ。杏里の顔を見つけると、また飛びついてきた。
「杏里さん。お時間いただけますか」
「え、ええ。もちろん。あの、パーティーのあと、花南さんは大丈夫? 男の人に言い寄られていたみたいだけれど」
「ああ、洋菓子・札幌ネージュのご長男さんのことですか。私が間に入って遠慮してもらうようにしておきましたけれど」
「ああ、よかった。ま、花南さんなら大丈夫とは思っていたけれども」
夫をやり込めたほどの女の子。まだ親の傘下で修行中の跡取り二代目さんぐらいなら、なんなくあしらっていたことだろう。それでも、目に付くほどに花南にひっついていたので確認しにきたのだ。
「それで親方はどうかされましたか」
はっと思い出したようにして、親方にまた応接テーブルに案内される。
テーブルにはすでに発注書が置かれていた。
「え、なにか注文がはいりましたか」
「はい。すこしですが。発注元の法人名なんですけれど」
法人名? 個人注文ではなく会社として注文をしてきたということらしい。この札幌と小樽周辺でおつきあいで注文をいただくことはよくあることだが、手に取った発注書の住所を見ると、山口県豊浦町とある。
「え、山口――」
法人名は『倉重観光グループ 倉重リゾートホテル』とある。
倉重!? 発注書の用紙を両手で持っていた杏里は、驚きのあまり左右に引っ張り破りそうになる。しかも担当者名が『倉重耀平』とある。
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