⑫花ひとつの力

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「昨日のことなんですけれど。注文主は、そちらの副社長で……、花南の義理のお兄さんだそうです。亡くなったお姉さんの夫さんです。義理の妹がどのようなところで修行しているか気にされたのかなと。お電話で少しお話しできたんですけれど、義妹には黙っていてほしいとのことでした」 「あの、パソコンを借りてもいいかしら」 「自分もそう思って、どうぞ」  テーブルに既に置かれていたノートパソコンを遠藤親方が差し出してくれる。そこにはすでに『倉重リゾートホテル』のWEBサイトが開かれていた。 『会社概要』のリンクからページを開くと、役員名の筆頭が花南の履歴書にある父親の氏名であって、そして副社長に義兄の氏名。事業内容のページを開いて絶句する。リゾートホテル以外に、料亭温泉旅館、瀬戸内海ブライダル結婚式場など様々な事業を展開させていた。おそらく大澤倉庫より規模は上。 「ご、ご令嬢様……じゃない」 「そうだったんですよ~。腰が抜けました。でもなんだかしっくりしたといいましょうか」 「なんで、あんな援助もなしに、質素に??」 「たまにいますよ。逆に実家が裕福だからこそ、己の力だけでやってみたいという若さといいますか。それに。裕福だからこそ芸術に没頭できる。富裕層出身の芸術家が出ることは、わりと自然なことで、よくあることです」  杏里も腑に落ちたが、もの凄く興奮している。
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