⑬恋以外は、すべて

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⑬恋以外は、すべて

 花南が倉重観光グループ社長の令嬢だとわかった夜、遠藤親方から貸してもらった発注書を手に帰宅する。  夫が帰宅した22時。食事を終えたところを見計らって報告した。  優吾も実家住所から家族構成と、姉が事故死した状況のほうが持っている情報収集ルートの特性で先にわかっていたが、家業まではまだ掴んでいなかった。  だから、ふたりとも、おなじようにネットのWEBサイトを確認して茫然としていた。 「うわー。あのあたりで事業を結構持っている実家だね。どうりで、生まれた時からお嬢様だったわけだ。それで堂々としているのか。母さんが言っていた『おなじ格の人間がそばにいて慣れている』は正解だったね。お父さんが社長、お姉さんの夫だった義兄さんがそのまま残って副社長。甥っ子が将来の跡取り息子で孫ってことか」  優吾の感嘆の声、夫も驚きはしていたが、もう落ち着いていた。  仕事をしているときとおなじ、冷めた目で『倉重観光リゾートホテル』のサイトをあちこちクリックして眺めている。 「そうか。優吾、もう調べなくていい」 「え、そう? ほんとうに? お姉さんが夜中にひとりで運転していた車で、萩の海に転落ということまでわかったんだよ。居眠り運転で事故処理されているけど、人妻が幼子と夫を自宅に残して、なんのために夜中に一人でそこまで運転していたかが俺には気になるんだよね。そこも、小樽に来ることになった事情と関係あるのかと俺は考えているけれど」
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