⑬恋以外は、すべて

6/7
前へ
/916ページ
次へ
 杏里の隣でもじもじしている。それが気になって、杏里は義弟の顔をやっと見上げる。一緒に子育てをするようになってから、優吾は長い髪を切り落とし、短めに整えるようになった。子供たちにひっぱられないため。とことん甥っ子たちを愛してくれ、いまの優吾にとってのいちばんは子供たちだった。夫よりも一緒に彼と子育てをしてきたと思うほどだ。  そんな彼が、杏里に対して気後れしている様子が気になる。 「に、兄さんの寝室に入っていったから、もしかしてと思って。でも、違ったんだね。ちょっと安心した。なんかいまの兄さん危なっかしいかんじだったから。その、無理矢理とか……」  あ、その心配をしてくれていたのかと、杏里もハッとする。  逆に契約妻だから、安心しきっていた。 「義姉さんが、それで良ければ別に心配しないけど」 「まさか。契約しているんだから、美紗さんがいる以上絶対に一線は越えないわよ。裏切りになるじゃない。樹さんもそれはわかっているはずだもの」  そこで優吾がふっと、いつにない深いため息を落とした。彼も疲れたように、やるせなさそうに。 「あのね、兄さんがあんなに崩れ落ちて見ていられないから、もう俺も遠慮するのやめておくね」  遠慮する? なんのことかと訝しみながらも、杏里はあと一口のブランデーを含む。最後に胸に広がった熱でどんなことも溶かして、聞いたらすぐに眠ろうと思いながら、なにげなく耳を傾ける。 「義姉さんと兄さんがセックスをしたのは、一清がお腹にできるまでだよね」  最後のひとくちを吹き出しそうになった。どんなに親友みたいな義弟でも、夫妻のセクシャルについて踏み込まれたことはなかったからだ。 「え、なに急に。そうよ。だって、そういう約束だし」
/916ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5113人が本棚に入れています
本棚に追加