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⑭愛人のしあわせ
どういうことなの? 杏里は恋を捨てたから、あとは契約通りに生きてきた。それで満足だった。
だがその裏で、本当の夫妻のように過ごしてきた樹と美紗には不可欠の『愛の営み』が喪失していたとは。杏里と同じように情愛には枯れた生活をしていたと?
男と女の愛をずっと育んでいたと思っていたのに。
だから、カフェ経営と女友達?
だから、子犬ちゃんと、それを守れる男?
だったらどうして別れない?
いや二人が別れたら、どうなる? 杏里もどうなる? 誰とどうなる?
そこまで考え至り、杏里は思い改める。
どこの夫婦だって、熱愛が過ぎたら『それ』ばかりの家庭で生きていくわけではない。なくなったらなくなったで、家族として生きていく。簡単には別れない。セックスレスが原因で別れることもあるだろうが、どこかで折り合いをつけてふたりで年齢を重ねていく。樹と美紗が本当の意味で夫婦だったのなら、熱愛の嵐が過ぎ去って、『倦怠期』を過ごしていただけかもしれないのでは。
あの二人が終わっている。そんなはずはない。ひとりで絶対にそうに違いないと思い込もうとした。
だが杏里が一生懸命に夫と愛人の揺るがない愛を信じていたのに。憑きものが取れて、すっかり落ち着いた様子を取り戻した樹が、毎日、杏里と子供たちと義弟が待っている自宅に帰ってくるようになった。
これまでは、週の半分は美紗の家に、そして子供たちがいる夫妻の家へと平等に過ごしていた。
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