⑯花は見ている

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「そうですね。きっと良い作品を造ってくれるようになりますよ」 「私にしか作り出せない芸術、か……。見つけてくれるといいな」 「はい。そうなれるよう、力添えになりたいですね」 「ああ。そうだな」  不思議な感覚だった。少し前にプライドを粉々に打ち砕いてくれた若い女の子、今度は、そんな若い彼女の真っ直ぐさを見て、夫婦としてなんだか通じるように感じられるだなんて。  やがて二人揃って紅茶がなくなりそうになる。そろそろ夫と一緒に帰ろうかと思っていたら、花南がじっとこちらを見ていた。  樹も一緒に気がついた。  なんでオーナー夫妻がこんな朝早く揃って居るのか。オーナーの奥さんだけがここにいるならともかく。あの『強引なおじさん』までいるだなんてという、妙に怪しんでいる目つきだった。  なのに彼女がこちらにカメラを構えたのだ。  しかもカシャリとシャッターを押された。いきなり夫婦揃ってのところを撮影されて、これまた夫ともに仰天する。  花南が撮り終えて、デジタルディスプレイに表示された二人の姿を確認している。 「奥様。悪いことをした旦那さんの顔、取っておきますか」  え? また樹とともに目が点になっていた。 「こら花南。やめなさい」  遠藤親方に諫められたのに、彼女はなんのその。またこちらにカメラのレンズを向けて構えた。 「だって。奥さんが家を飛び出して、旦那さんが困って迎えに来ましたって顔をしているんですよ。また若い女の子を強引に誘って、奥様を困らせたんでしょう。慌てて迎えに来た社長さんの顔を証拠に撮っておこうと思って」  一瞬で遠藤親方が笑いを堪えて、顔を逸らして隠したのがわかった。
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