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「そうですね。きっと良い作品を造ってくれるようになりますよ」
「私にしか作り出せない芸術、か……。見つけてくれるといいな」
「はい。そうなれるよう、力添えになりたいですね」
「ああ。そうだな」
不思議な感覚だった。少し前にプライドを粉々に打ち砕いてくれた若い女の子、今度は、そんな若い彼女の真っ直ぐさを見て、夫婦としてなんだか通じるように感じられるだなんて。
やがて二人揃って紅茶がなくなりそうになる。そろそろ夫と一緒に帰ろうかと思っていたら、花南がじっとこちらを見ていた。
樹も一緒に気がついた。
なんでオーナー夫妻がこんな朝早く揃って居るのか。オーナーの奥さんだけがここにいるならともかく。あの『強引なおじさん』までいるだなんてという、妙に怪しんでいる目つきだった。
なのに彼女がこちらにカメラを構えたのだ。
しかもカシャリとシャッターを押された。いきなり夫婦揃ってのところを撮影されて、これまた夫ともに仰天する。
花南が撮り終えて、デジタルディスプレイに表示された二人の姿を確認している。
「奥様。悪いことをした旦那さんの顔、取っておきますか」
え? また樹とともに目が点になっていた。
「こら花南。やめなさい」
遠藤親方に諫められたのに、彼女はなんのその。またこちらにカメラのレンズを向けて構えた。
「だって。奥さんが家を飛び出して、旦那さんが困って迎えに来ましたって顔をしているんですよ。また若い女の子を強引に誘って、奥様を困らせたんでしょう。慌てて迎えに来た社長さんの顔を証拠に撮っておこうと思って」
一瞬で遠藤親方が笑いを堪えて、顔を逸らして隠したのがわかった。
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