⑰心に春風

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 しつこい夫の差し入れ攻撃に呆れた花南が勧めたカメラは『ライカ』だった。夫もその気になって、すぐに探しに行ったようだった。  実家が資産家同士だから気負いもない、花南のお嬢様としての勝ち気な気質を、樹はとても気に入ったようだ。女性としてなんて一切見ていない。それこそ『気を抜いたらやり返される生意気な妹』ができて楽しんでいるのがわかる。  杏里もだった。花南が遠慮なく夫をいなしていると笑ってるし、夫がかっこつけないで花南の生意気さをおおらかに受け入れて『花南ちゃんには敵わないなあ』とあっさり負けている姿も、楽しく眺めている。  夫が、とても『素直に過ごしている』とわかるようになった。  これが本当の『樹』という男性の姿と笑顔なんだと。  その夫が、花南がいままで撮影したの写真ファイル集を楽しそうに眺めている。  杏里も気になって、ソファーに座っている夫の隣へと腰をかけて覗いてみた。  明るいアクアマリン色の海が白浜に広がっている写真が続いている。  日付は一、二年前のもので、『豊浦、父の部屋から』と黒ペンで添え書きがしてあった。 「実家が経営しているリゾートホテルの白浜だなこれ。社長室からということかな」 「WEBサイトでも、とても綺麗な海の写真ばかりだったものね。ほんとうに綺麗。北海道にはない色ね」 「いいな。いつか子供たちと行ってみたいな。遠浅で安心して泳げるし、その浅瀬にたまにイルカが来ることもあるそうだ」 「ほんとうね。楽しそう」
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